水面にカメラを向けていると突然、背後から声がかかる。Sであった。「ここは長江です。揚子江とも言います。もうすぐ上海ですね」「……」予想だにしていなかった言葉に返答できない。いくら目を凝らしても、あたりに陸地など見えない。あるのは灰色1色の大海原だけ。ここが川などと、だれが信じられようか。つばを飲み込み、おそるおそる問いなおしてみる。「Sさん。ここが長江、揚子江? ということは、ここは海ではなくて……」「そうです! ここは川。
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長江です」こう言い放つと彼は、長江についていろいろな話をしてくれた。『新蜃真号』は東シナ海から長江に入り、64海里(118・5キロ)も湖って上海に到達すること。長江には中国で3番目に大きな島・崇明島(東京都の約半分)があること。1番が台湾烏、2番が海南島、そして3番目は長江の中洲の崇明島というのだから、スケールの大きな話である。そんななかでも、極めつけの話がこれだ。初代の璧真号のころ、航海中に台風に襲われて通常の航路である紀伊水道〜太平洋(4国沖)〜大隅海峡〜東シナ海というルートが通れず、神戸港を出ると、瀬戸内海〜関門海峡〜日本海への迂回ルートがとられた。